ハワイ王国 母と娘の物語 〜母・ケオプオラニ、娘・ナヒエナエナ〜 第3話
Aloha! 『Surf Room ~ハワイの歴史を旅しよう~」担当、ハワイ歴史と神話の愛好家のMari Udagawaです。
今回は、ハワイ王国のとある家族の物語についてお話します。
ハワイ王国 母と娘の物語 〜▶ 母・ケオプオラニ、娘・ナヒエナエナ〜 第2話はこちら!|LaniLani
高貴な兄妹
ラハイナという街はまさにオールドタウンと呼ぶにふさわしい、独特の雰囲気がある町。
港から海沿いに伸びるフロントストリートは賑やかだけれど、その一本山側の道に入るとハワイ王国時代そのままなのではないかと思うような景色に出会うことができる。
カメハメハ3世小学校もそんな場所にある。
この近くに王国当時、ある高貴な兄妹が暮らしていた。
兄・カウイケアオウリ
妹・ナヒエナエ
父はカメハメハ大王、母は大王よりも高貴であったケオプオラニ。
ふたりの間には10人を越える子供が誕生していたが、成人したのはたった3人だけであった。
カメハメハ2世となるリホリホ、カメハメハ3世となるカウイケアオウリ、そしてナヒエナエナである。
カウイケアオウリは生まれたときに仮死状態だったようで、成長できるのか危ぶまれ、カウイケアオウリを引き取り育てることが決まっていた養父も預かることをためらったというが、運命の子であったのだろう。
無事に成人したカウイケアオウリはハワイ王国の8人の王の中で一番長く王座に就くことになる。
カウイケアオウリが5歳の頃に父・カメハメハ大王が亡くなり、母・ケオプオラニもその5年に他界してしまう。
大王の死後に王となった兄・カメハメハ2世も母の死の翌年、ロンドンで帰らぬ人となりカウイケアオウリはわずか10歳でハワイ王国の王となる。
カメハメハ大王の血筋
2世が亡くなったことにより、大王とケオプオラニの高貴な血を受け継いだ者はカウイケアオウリとナヒエナエナ兄妹ふたりになってしまった。
ほかにも大王の子供はいたが、大王が求めたものはより高貴な血筋であり、ケオプオラニの子供のみを後継者と定めていた。
これには大王自身の王族ランクがあまり高くなかったことが影響していると考えられる。
ケオプオラニは「ナハ」というとても高いランクの王族だったが、大王は「ウォヒ」という4番目のランクであった。
それゆえに自身の血筋だけではハワイ島の1エリアを治めることもままならず、野心に燃え、ハワイ島そしてハワイ諸島統一という夢を抱き、成し遂げたという経緯がある。
その偉業を後世に受け継ぐためには高貴な血筋が必要と大王は考えていたのだろう。
兄・カメハメハ2世と弟・カウイケアオウリは16歳ほど歳が離れていたので、2世に子供がいたらその子がハワイ王国の次期王となっていたかもしれない。
しかし2世は即位した時、子供がいなかったため次期王にはカウイケアオウリが指名されていたのだろう。
カウイケアオウリとナヒエナエナ
カメハメハ大王とケオプオラニの血を引く兄妹。
このふたりの結婚。
より高貴な血、血の純血性を求めていた当時のハワイの王族の間では特別奇異なことではなかったのかもしれない。
むしろ血の純血性を保つためには大王がそれを望んでいたのかもしれない。
これはハワイだけではなく、世界の王家ではよくみられることである。
たとえば、エジプトのクレオパトラ。
彼女は弟を夫としていた。
また日本でも、推古天皇は異母兄が夫であった。
一説にはカメハメハ3世が年頃になったときに、3世に相応しい血筋を持つ王族女性がいなかったために妹が妻として選ばれたとの見方もあるが、これには矛盾を感じる。
おそらくふたりは幼い頃からの許嫁であったのであろう。
両親も兄も亡くした幼いふたりは兄妹であると同時に将来の結婚を前提に成長していったと考えられる。
兄妹以上の固く熱い絆がふたりを結びつけていてに違いない。
宣教師の来島
もし、キリスト教がハワイにもたらされなければ、またはそれがあと10年遅ければ高貴な兄妹の人生は大きく違っていたはずである。
ふたりの母・ケオプオラニはハワイの古来からの風習や文化のなかにキリスト教が入ってくることを歓迎し、自らも熱心に学んだ。
キリスト教の宣教師のハワイ来島は1820年、幼い兄妹はいまに例えるなら幼稚園から小学校入学頃の年頃にあたる。
それから5年後にケオプオラニが亡くなるのだが、死の床で洗礼を受けてハワイ王族では初めてのクリスチャンとなった。
このことからもいかにキリスト教の広まりが早く、深いものであったかがうかがわれる。
キリスト教の伝播はそれまでのハワイの価値観を覆すものでもあり、兄妹はその渦に巻き込まれてしまうのである。
ハワイでは尊いとされてきた神聖な結婚はキリスト教ではタブー。
しかし人を愛することをそんなに簡単にやめられるはずはなく、若いふたりは歴史の波に翻弄されてゆくのだった。
第四話に続く