ハワイ王国 母と娘の物語 〜母・ケオプオラニ、娘・ナヒエナエナ〜 第4話
Aloha! 『Surf Room ~ハワイの歴史を旅しよう~」担当、ハワイ歴史と神話の愛好家のMari Udagawaです。
今回は、ハワイ王国のとある家族の物語についてお話します。
ハワイ王国 母と娘の物語 〜▶ 母・ケオプオラニ、娘・ナヒエナエナ〜 第3話はこちら!|LaniLani
ケオプオラニの学び
古のハワイの王族は一夫多妻の例が多く見られる。
妻たちは夫が亡くなるとたいてい夫と縁のある別の王族の妻になる。
ケオプオラニはカメハメハ大王の死後(一説には大王の生前に)ホアピリの妻となった。
ホアピリは大王からの信頼も厚く、大王の亡骸の埋蔵を任された人物であり、ホアピリとは親友を意味する。
大王の死の翌年、アメリカからやってきた宣教師によってもたらされたキリスト教にケオプオラニはとても好意的であった。
キリスト教だけではなく西洋の文化にも興味を示したといったほうがいいかもしれない。
ハワイ語に文字が与えられ、英語も広まってゆく。
ケオプオラニはどちらも熱心に学んだ。
その背景には大王亡き後に進んだカプ(男女が一緒に食事をしてはいけない、など)の崩壊があり、ハワイの古来からの王族制度や彼女の高貴な血筋のために歩まざるを得なかった苦難の続きの半生に対する疑問や抵抗があったのであろう。
ハワイのそれまでの文化や風習とは対をなす西洋のそれは合理的あり、ケオプオラニには自由な世界への導きであったのかもしれない。
その糸口がキリスト教であったと考えると、ケオプオラニの新しい教えに対する傾倒も頷くことができる。
ケオプオラニの最後の子、ナヒエナエナは自らの手で育てることの叶ったただ一人の子でそれは大切に育てたという。
そして愛娘にもキリスト教を学び敬虔なクリスチャンとなることを期待していた。
ケオプオラニの求めた学びであり癒やしであり、新しい世界への扉であったキリスト教がある人物との友情を結んだ。
ケオプオラニとカウムアリイの友情
カウアイ島の王・カウムアリイ。
1810年、カメハメハ大王とカウムアリイの間である約束が交わされた。
カウアイ島はカウムアリイ存命中はそのまま統治しカメハメハはカウアイ島を不可侵とすること。
しかしこれをケオプオラニの息子であるカメハメハ2世と大王の愛妃であり2世の摂政であるカアフマヌが反故にしてしまった。
カウムアリイを誘拐してカウアイ島からホノルルに連行したカメハメハ2世。
それをホノルルで待ち受けていたカアフマヌとの結婚。
この誘拐劇に関しては、年若いカメハメハ2世の発案というより、大王のハワイ諸島統一の遺志を継いだカアフマヌの策略であったと私は考える。
カメハメハ2世の有能さ、素直さがそれを成功させたのだろう。
カウムアリイはカウアイ島に戻ることなく生涯を閉じることとなる。
そんなカウムアリイとケオプオラニは同じ年ということもあってか、いつしか友情が芽生え、カウムアリイはキリスト教を熱心に学ぶケオプオラニの影響を受けた。
ケオプオラニの最後の日々
ケオプオラニは1823年5月にオアフ島を離れて故郷・マウイ島へもどる。
ラハイナでの日々を送る中で、死期を悟ったケオプオラニは自らの土地を教会を建てるために提供するなどキリスト教の布教の後押しをしていく。
自身の死後は彼女が目にしてきたハワイの古くからの亡骸の埋葬方法ではなく、西洋式に棺に入れてほしいと望んだという。
カアフマヌは実父の死後、その腕の骨を持っていたという。
ハワイでは亡骸の髪を抜いたり、体を切断したり歯を折ったりすることがあったが、ケオプオラニはそのような一切を拒んだ。
9月、ケオプオラニ永眠。
カメハメハ2世の客死
ケオプオラニが亡くなった当時、長兄・カメハメハ2世は25歳。
母の影響も受けたのであろう、西洋への憧れとキリスト教への理解のある王となっていた。
母の死から間もない11月、カメハメハ2世はロンドンへと旅立つ。
ジョージ4世との会見が目的であった。
それまで2世には5人のお妃がいたが、ロンドン出発に際してひとりを残して手放している。
イギリスと同盟を結ぶためには太平洋の蛮国であってはならない。
一夫多妻はキリスト教に反する。
そう2世は考えていたといわれている。
西洋の文化や習慣を理解したハワイ王国の王として船出したのであったが、ジョージ4世との会見を前に、ロンドンで王妃とともに麻疹で命を落とした。
残された幼い弟と妹。
カウイケアオウリとナヒエナエナ。
後ろ盾になってくれる大人はいても、もう肉親はいない。
ふたりきりになってしまった。
そしてカウイケアオウリはハワイ王国の王、カメハメハ3世として即位した。
もしカメハメハ2世がロンドンで客死しなければ、カウイケアオウリとナヒエナエナが結婚することはなかったかもしれない。
古のハワイでの聖婚はこれからの時代にはそぐわないものであり、血の純血性を求め過ぎることはかえってその高貴な血を汚すことになりかねないと、年の離れた兄ならば弟と妹を諭すことができたかもしれない。
しかし、カメハメハ2世も急速に変化していくハワイの歴史の犠牲者となったのだった。
カウイケアオウリとナヒエナエナ。
ふたりの結婚が是なのか非なのか、善なの悪なのか、誰も決めることはできない。
ふたりは魂で求め合い、時代に翻弄されただけだったのだ。
それを母・ケオプオラニは望んだであろうか。
第5話へ続く
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